クビアカツヤカミキリの生態と日本での被害の現状について
一般社団法人「外来カミキリ対策室(外来カミキリバスターズ)」代表理事
樹木医 安齋 由香理

外来カミキリムシの被害が全国で深刻化
近年、外来カミキリムシによる被害が相次いでおり、主に問題となっているのはクビアカツヤカミキリ、ツヤハダゴマダラカミキリ、サビイロクワカミキリの3種です。なかでも、とくに深刻な被害を及ぼしているのがクビアカツヤカミキリです。
クビアカツヤカミキリの原産地と特徴
クビアカツヤカミキリは中国、韓国、台湾など東アジアを主な原産地としています。日本では2011年に初めて確認されて以降、急速に分布を広げ、2026年8月現在では21都府県で確認されています。全身は光沢のある黒色で、胸部だけが赤いことからこの名が付いています。体長は2~4㎝ほどで、つかむとジャコウのようなにおいを放ちます。本種が厄介なのは、メス1匹の一生の産卵数が300~1000個と非常に多く、サクラ、モモ、ウメなどのバラ科樹木に寄生する点です。
日本で被害が深刻化する背景
外来種の多くは原産地では大きな問題にならなくても、侵入先では天敵が少ないことなどの要因により爆発的に増え、問題化しやすい傾向があります。クビアカツヤカミキリもその典型例といえます。とくに日本ではサクラの植栽が多く、河川敷、公園、街路樹などで大径木化したソメイヨシノが被害を受けやすいため、問題が深刻化しています。モモの果樹園での被害も多く、各地に寄主となる樹木が豊富にあることが分布拡大を助長しています。
成虫の生態と繁殖力の脅威
クビアカツヤカミキリの成虫は、ほかの2種の外来カミキリムシと異なり、羽化脱出後すぐに交尾・産卵できる点も大きな脅威です。オスはメスより早く羽化脱出し、メスが出てくるのを待ち伏せします。あまり知られていませんが、多くの昆虫は一度交尾すれば、その後もずっと産卵を続けられます。多回交尾によって産卵数が増えるカミキリムシも報告されていますが、クビアカツヤカミキリも一度交尾に成功すれば、体内に持っている卵をすべて産むことができます。
幼虫による樹木の致命的な被害
成虫は約2カ月活動し、その間に樹皮上へ大量に産卵を繰り返します。卵から孵化した幼虫はすぐに材内へ穿孔しますが、サクラなどでは初期には樹木が異常を感知し、樹脂を出して防御します。樹脂にのまれず成長した幼虫は樹皮下を面的に食い荒らし、翌春には糞と木くずが混ざった「フラス」を排出するようになります。幼虫は材内で2年間過ごし、3年目の6月ごろに羽化脱出します。幼虫は樹木にとって重要な形成層付近を食害するため、樹木は数年で衰弱し、やがて枯死します。
クビアカツヤカミキリ成虫
クビアカツヤカミキリによる被害を受けた樹木
樹木の根元にたまった「フラス」
防除の難しさと早期対策の重要性
外来種対策の基本は早期発見・早期防除です。本種も、被害を見つけた時点で速やかに確実な方法で対処しなければ、被害は急速に広がり、後の労力や費用が増大してしまいます。
クビアカツヤカミキリは驚異的な産卵数と、幼虫が材内部に穿孔するため薬剤が届きにくい性質があり、現時点で日本国内において根絶に成功した事例はなく、防除の難しさがうかがえます。成虫は飛翔して分布を広げるほか、車などに付着して移動する、いわゆるヒッチハイクもしていると考えられています。
自治体・地域での連携の必要性
自治体では道路、河川、公園、学校、果樹園などを管理する部署がそれぞれ異なるため、部門を越えた連携が欠かせません。加えて、民有地での発生も多く、すべてに漏れなく対応できる仕組みがまだ確立していないことも課題です。
自治体によって対策への温度差もあり、ある自治体が熱心に防除しても、隣接する市町村で対策が不十分であれば、そこから成虫が侵入する場合があります。そのため、地域全体で一斉に取り組むことが重要です。
また、本種への認知はまだ十分とはいえず、被害が深刻化してから初めて気づく例も少なくありません。未侵入の地域でも早期発見のための基礎知識を広め、被害を見分ける力を養うことが急務です。
防除手法と侵入段階に応じた対応
本種は国内で初めて確認されてから7年後の2018年に特定外来生物へ指定されました。しかし、その後も分布拡大は続いています。
研究の進展により防除手法は増えているものの、現時点で100%確実に駆除できる方法は伐採以外にありません。複数の手法を組み合わせ、効果的な時期を見極めたうえで、成虫、幼虫、卵のどれを対象にするのかを明確にし、適切な方法を選ぶことが重要です。
侵入段階に応じて目的と手法を使い分けることも欠かせません。侵入初期は被害を最小限に抑えるため実効性の高い方法を選び、すでに蔓延している場合は密度低下を目的とした手法へ切り替えるなど、柔軟な対応が求められます。
また、地域によっては果樹産地であったり、庭にサクラを植える文化があったり、桃源郷として観光誘致を行っている場所があったりします。そのため、あらかじめ被害木となり得る樹種と規模、位置を洗い出し、ゾーニングしながら見回りを進めることも必要です。
人への働きかけと社会的理解の重要性
この問題では、虫への直接的な対策だけでなく、人への働きかけも重要です。サクラは花見や観光の名所となる場所も多く、伐採を先送りするうちに被害が広がり、数年後には壊滅的な状態に至る例も少なくありません。
行政に加え、管理者、サクラの保存会、地域住民、昆虫愛好家、研究機関、樹木医、造園業者などの理解と協力が必要です。
まずは多くの人が関心を持ち、身近なサクラ、モモ、ウメなどに被害がないかを意識し、早期発見に努めることが重要です。発見した場合は速やかな対処が求められ、多くのサクラを守るために一部の樹木を伐採せざるを得ない場合があることへの理解も必要となります。
その必要性を適切に説明できる人材の育成と、継続的な監視も欠かせません。

安齋 由香理
樹木医で外来カミキリの根絶を目指す一般社団法人「外来カミキリ対策室(外来カミキリバスターズ)」代表理事。2021年に福島県郡山市で外来種「サビイロクワカミキリ」の侵入を初確認したことをきっかけに、行政と連携しながら防除活動に取り組んでいる。2022年より4年間、外来カミキリムシの研究に参画。